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丹沢主綾を一日で縦走せよ(2)

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激坂を越えろ。蛭ヶ岳へ

臼ヶ岳を下り始める。(12:55)

しばらくは、なだらかな道が続く。

道はとても明瞭だ。

道迷いのベテラン、キリヤマでもこれなら迷わず安心だ。

前方をふさぐようにロープが張ってある。

道はここで大きく左に折れる。

 

階段を下って、さらにその先も下っていく。

いよいよ蛭ヶ岳への登りが始まる。

ところがだ、何か体が変だ。力が入らない。

アレ?おかしい。ちょっと疲れているのかな。

あまり気にしないで進む。

体が思うように動かない感じがする。

少し休んだほうがいいかな。

クサリ場だ。

ところが、ここで体がどうしてもクサリをつかもうとしない。

何度か試みるが、どうしてもクサリをつかめない。

まるで体が拒絶しているようだ。

(クサリが拒絶しているのかもしれない)

ドキュメンタリー風に書くと、こんな感じだ。

― キリヤマはその場に座り込んで、しばらく考えた。

  早く行かねば、と気が焦る。何度か試してみる。

  だが体は動かなかった。そこからが戦いだった。

なんとか動いてクサリ場を越える。

クサリ場の先もきつい坂が続く。

吐き気がしてくる。頭痛もする。

これは熱中症か。意識も朦朧もうろうとしてきた。

先ほどから汗が出なかったのは、熱中症の前ぶれだったのだ。

熱中症になった原因としては、

体力の低下、気温の上昇、男っぷりがあがった、などが考えられるが、

男っぷりを下げても熱中症は回復しないだろう。

きつい、きつい、きつい…

あぁいかん。こんなことを考えていると

ますます苦しくなってくる。

よし、ここはポジティブシンキングだ。

きつくて楽しいなぁ。

苦しいの大好きだ。

キリヤマって天才。

おかしいな、まったく楽にならない。

ポジティブシンキングは熱中症には効かないのか。

(それとも何か勘違いをしているのか)

それでもとにかく、進まないといけない。

ええい、もう何も考えないで登るぞ。

「・・・」

「・・・」

「・・・」

ぷっは。ずいぶん登ってきた。

振り返ると、今日歩いてきた稜線が一望できる。

あぁ、自然という大きな営みの上に

今、自分が立っているというこの感覚。

じっと見つめていると、こちらに近づいてくるような山。

心の奥で何かが変わっていく感じがする。

険しい登りが少しゆるんでくると、頂上が見えてくる。

頂上が見え始めてからが、少し長い。

山頂の直下で、道がなだらかになってくる。

蛭ヶ岳山頂に到着。(14:00)

山頂は樹木もなく、明るい。

ここは360の展望があるのだが、今日は霞んでいる。

 

 

 

ここで臼ヶ岳で会った人と再会。

お互いの喜びを分かち合う。

とても清らかな気持ちだ。

熱中症を克服せよ、丹沢山へ進め

山頂で30分ほどゆっくりするが、

体調が回復してこない。頭痛を我慢できず、薬を飲む。

そして、おにぎりをかなり無理やり流し込む。

しかし、いつまで休んでも回復しそうにも無い。

薬はまったく効いてこない。

ここまでで、コースのようやく半分だ。

まだ先が長いので、探検を再開することにする。(14:30)

蛭ヶ岳の山頂を背に、しばらく下っていく。

鬼ヶ岩の頭が近くに迫ってくる。

道はここでまた登りに入る。

岩場に設置されているクサリ場を登る。

疲労が激しく、力が入らない。

ロバのように一歩一歩、ゆっくりと登っていく。

はるか上に先行する探検家が、

足早に登っていくのが見える。

わぁすごいな、あの人。

鬼ヶ岩に到着。

鬼ヶ岩から蛭ヶ岳を望む。

この角度からの撮影された写真を

ガイドブックなどでしばしば見る。

鬼ヶ岩をすぎるとしばらくは平坦な道が続く。

ここで時間稼ぎに走りたいのだが、走る元気も体力もない。

男っぷりも下がったかもしれない。

棚沢ノ頭を過ぎて不動ノ峰に向かう。

不動ノ峰でベンチに座っている、高校生4人のパーティに出会う。

挨拶を交わすと

「蛭ヶ岳にはどうやっていけばいいのですか」

と尋ねてくる。

どうやってといわれても、道は一本しかない。

そこで蛭ヶ岳を指さして

「山頂に山小屋がある、あれが蛭ヶ岳です」

といったら、一同感嘆の叫び。

おいおい、地図持ってないのか、君たち。

初めて登るのか。大丈夫か。(人のことは言えないけど)

おじさんはとっても心配だぞ。

 

地図を持たないでどうする。

将来わたしのような大人になってもいいのか。

「ところで、蛭ヶ岳に行った後、君達はどうするんですか」

「蛭ヶ岳山荘に予約を取ってあります」

そうか、それを聞いて安心した。

不動ノ峰を通過。

休憩所を通り過ぎる。

丹沢山への登りが見えてくる。

そんなにすごい登りではないのだが、

とてもきつく感じる。

丸太の階段をゆっくり登っていくと、

丹沢山へ到着(15:36)。蛭ヶ岳から約1時間だ。

丹沢山ではお手洗いを済ます。

そういえば、今日は檜洞丸でお手洗いに行ったきりだった。

山頂には探検家が集まっている。

彼らはみやま山荘に泊まるらしい。

いよいよ最後だ。塔ノ岳へ進め

次に日高稜線を進む。

ここからしばらくは平坦な道が続く。

 

竜ヶ馬場を過ぎると

長い木道がある。

やがてこんもりとした日高が見えてくる。

ああ、あそこまで登るのか、そう思ったら

突然力が抜けるように、座りこんでしまった。

しばらく伏せてじっとしている。どうしても立てない。

このまま動けなくなるのか。

アンヌ隊員、フルハシ隊員の顔が

思い浮かんでくる。

みんな、すまない、

わたしはここで終わりだ。

 

ここで突然、翌日の新聞の見出し

“ 自称探検家、疲れて動けず救出 ”

を考えて、ぎゃっと起き上がる。

(新聞ざたになったら恥だ)

 

目の前に塔ノ岳が見えてくる。

そして、日高山と塔ノ岳の間にある

鞍部に向かって下っていく。

さぁ本日、最後の登りだ。いくぞ。

(新聞ざたになってたまるか)

塔ノ岳に到着。(16:39)

やったぞ。ここまでくればもうあとは

大倉尾根を下るだけ、これで安心だ。

尊仏山荘の外装が新しくなって

とてもきれいだ。

夕暮れ時にここに来るのは、初めてだ。

山々に霞がかかって、とても荘厳的な感じがする。

いつかテレビで見た中国の山奥のような風景に

しばし見とれてしまう。

大倉へ急げ

ここからは、ずっと下りだ。

そう思うと、気持ちがとても楽になってくる。

トレイルランニングで下るぞ。(16:51)

快調に下って、花立を通過する。

見慣れないマシーンが登山道脇に設置されている。

これはweb情報によると、人が何人通過したかを

カウントしている機械らしい。

丸太の階段の間にある石に足をとられ

うまく駆けることができない。

堀山の家に到着。

さすがは大倉尾根。歩きやすい。

ちゃんと整備されている。

人間カウントマシーン、その2だ。

駒止茶屋を通過。

一本松を通過。一本松の地名は、かつてここに

松の大木があったことに由来しているらしいが、

惜しくも倒れてしまったということだ。

また松を植えてほしい。

見晴らし茶屋を通過。

森の中の道が暗くなってくる時間だ。

気をゆるめずに急ごう。

一般道に出た。バス停まであと少し。

 

そしてゴール。(18:50)

塔ノ岳から2時間。なんとか日が暮れる前に

大倉バス停に到着。

苦しかったが充実した探検だった。

感想

●熱中症のツケは、その後3日間の食欲減退、筋肉疲労、脱力感、さぼり癖、につづき、

 ベッカムに似ていると言われなくなる(いままでも言われたことはなかった)という結果を招いた。

●ガイドブックでは、このコースは山小屋に泊まる一泊二日のコースとして紹介されている。

 探検初心者のわたしにとって、このコースはかなり無謀だったようだ。

 ペース配分も考えず、檜洞丸へ登るときに張り切りすぎてしまい、コース後半は

 探検ではなく、戦いになってしまった。生き残れてよかった。

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