激坂を越えろ。蛭ヶ岳へ |
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臼ヶ岳を下り始める。(12:55) しばらくは、なだらかな道が続く。 | |||
道はとても明瞭だ。 道迷いのベテラン、キリヤマでもこれなら迷わず安心だ。 | |||
前方をふさぐようにロープが張ってある。 道はここで大きく左に折れる。 | |||
階段を下って、さらにその先も下っていく。 | |||
いよいよ蛭ヶ岳への登りが始まる。 ところがだ、何か体が変だ。力が入らない。 アレ?おかしい。ちょっと疲れているのかな。 あまり気にしないで進む。 | |||
体が思うように動かない感じがする。 少し休んだほうがいいかな。 | |||
クサリ場だ。 ところが、ここで体がどうしてもクサリをつかもうとしない。 何度か試みるが、どうしてもクサリをつかめない。 まるで体が拒絶しているようだ。 (クサリが拒絶しているのかもしれない) | |||
ドキュメンタリー風に書くと、こんな感じだ。 ― キリヤマはその場に座り込んで、しばらく考えた。 早く行かねば、と気が焦る。何度か試してみる。 だが体は動かなかった。そこからが戦いだった。 | |||
なんとか動いてクサリ場を越える。 クサリ場の先もきつい坂が続く。 吐き気がしてくる。頭痛もする。 | |||
これは熱中症か。意識も 先ほどから汗が出なかったのは、熱中症の前ぶれだったのだ。 熱中症になった原因としては、 体力の低下、気温の上昇、男っぷりがあがった、などが考えられるが、 男っぷりを下げても熱中症は回復しないだろう。 | |||
きつい、きつい、きつい… あぁいかん。こんなことを考えていると ますます苦しくなってくる。 | |||
よし、ここはポジティブシンキングだ。 きつくて楽しいなぁ。 苦しいの大好きだ。 キリヤマって天才。 | |||
おかしいな、まったく楽にならない。 ポジティブシンキングは熱中症には効かないのか。 (それとも何か勘違いをしているのか) それでもとにかく、進まないといけない。 ええい、もう何も考えないで登るぞ。 「・・・」 | |||
「・・・」 「・・・」 ぷっは。ずいぶん登ってきた。 | |||
振り返ると、今日歩いてきた稜線が一望できる。 あぁ、自然という大きな営みの上に 今、自分が立っているというこの感覚。 じっと見つめていると、こちらに近づいてくるような山。 心の奥で何かが変わっていく感じがする。 | |||
険しい登りが少しゆるんでくると、頂上が見えてくる。 頂上が見え始めてからが、少し長い。 | |||
山頂の直下で、道がなだらかになってくる。 | |||
蛭ヶ岳山頂に到着。(14:00) 山頂は樹木もなく、明るい。 ここは360の展望があるのだが、今日は霞んでいる。
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ここで臼ヶ岳で会った人と再会。 お互いの喜びを分かち合う。 とても清らかな気持ちだ。 | |||
熱中症を克服せよ、丹沢山へ進め |
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山頂で30分ほどゆっくりするが、 体調が回復してこない。頭痛を我慢できず、薬を飲む。 そして、おにぎりをかなり無理やり流し込む。 しかし、いつまで休んでも回復しそうにも無い。 薬はまったく効いてこない。 ここまでで、コースのようやく半分だ。 | |||
まだ先が長いので、探検を再開することにする。(14:30) 蛭ヶ岳の山頂を背に、しばらく下っていく。 | |||
鬼ヶ岩の頭が近くに迫ってくる。 道はここでまた登りに入る。 | |||
岩場に設置されているクサリ場を登る。 疲労が激しく、力が入らない。 ロバのように一歩一歩、ゆっくりと登っていく。 | |||
はるか上に先行する探検家が、 足早に登っていくのが見える。 わぁすごいな、あの人。 | |||
鬼ヶ岩に到着。 | |||
鬼ヶ岩から蛭ヶ岳を望む。 この角度からの撮影された写真を ガイドブックなどでしばしば見る。 | |||
鬼ヶ岩をすぎるとしばらくは平坦な道が続く。 ここで時間稼ぎに走りたいのだが、走る元気も体力もない。 男っぷりも下がったかもしれない。 | |||
棚沢ノ頭を過ぎて不動ノ峰に向かう。 | |||
不動ノ峰でベンチに座っている、高校生4人のパーティに出会う。 挨拶を交わすと 「蛭ヶ岳にはどうやっていけばいいのですか」 と尋ねてくる。 どうやってといわれても、道は一本しかない。 そこで蛭ヶ岳を指さして | |||
「山頂に山小屋がある、あれが蛭ヶ岳です」 といったら、一同感嘆の叫び。 おいおい、地図持ってないのか、君たち。 初めて登るのか。大丈夫か。(人のことは言えないけど) おじさんはとっても心配だぞ。
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地図を持たないでどうする。 将来わたしのような大人になってもいいのか。 「ところで、蛭ヶ岳に行った後、君達はどうするんですか」 「蛭ヶ岳山荘に予約を取ってあります」 そうか、それを聞いて安心した。 | |||
不動ノ峰を通過。 | |||
休憩所を通り過ぎる。 | |||
丹沢山への登りが見えてくる。 そんなにすごい登りではないのだが、 とてもきつく感じる。 | |||
丸太の階段をゆっくり登っていくと、 | |||
丹沢山へ到着(15:36)。蛭ヶ岳から約1時間だ。 丹沢山ではお手洗いを済ます。 そういえば、今日は檜洞丸でお手洗いに行ったきりだった。 | |||
山頂には探検家が集まっている。 彼らはみやま山荘に泊まるらしい。 | |||
いよいよ最後だ。塔ノ岳へ進め |
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次に日高稜線を進む。 ここからしばらくは平坦な道が続く。 | |||
竜ヶ馬場を過ぎると 長い木道がある。 | |||
やがてこんもりとした日高が見えてくる。 ああ、あそこまで登るのか、そう思ったら 突然力が抜けるように、座りこんでしまった。 しばらく伏せてじっとしている。どうしても立てない。 このまま動けなくなるのか。 | |||
アンヌ隊員、フルハシ隊員の顔が 思い浮かんでくる。 みんな、すまない、 わたしはここで終わりだ。
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ここで突然、翌日の新聞の見出し “ 自称探検家、疲れて動けず救出 ” を考えて、ぎゃっと起き上がる。 (新聞ざたになったら恥だ) | |||
目の前に塔ノ岳が見えてくる。 そして、日高山と塔ノ岳の間にある 鞍部に向かって下っていく。 | |||
さぁ本日、最後の登りだ。いくぞ。 (新聞ざたになってたまるか) | |||
塔ノ岳に到着。(16:39) やったぞ。ここまでくればもうあとは 大倉尾根を下るだけ、これで安心だ。 | |||
尊仏山荘の外装が新しくなって とてもきれいだ。 | |||
夕暮れ時にここに来るのは、初めてだ。 山々に霞がかかって、とても荘厳的な感じがする。 いつかテレビで見た中国の山奥のような風景に しばし見とれてしまう。 | |||
大倉へ急げ |
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ここからは、ずっと下りだ。 そう思うと、気持ちがとても楽になってくる。 トレイルランニングで下るぞ。(16:51) | |||
快調に下って、花立を通過する。 | |||
見慣れないマシーンが登山道脇に設置されている。 これはweb情報によると、人が何人通過したかを カウントしている機械らしい。 | |||
丸太の階段の間にある石に足をとられ うまく駆けることができない。 | |||
堀山の家に到着。 | |||
さすがは大倉尾根。歩きやすい。 ちゃんと整備されている。 | |||
人間カウントマシーン、その2だ。 | |||
駒止茶屋を通過。 | |||
一本松を通過。一本松の地名は、かつてここに 松の大木があったことに由来しているらしいが、 惜しくも倒れてしまったということだ。 また松を植えてほしい。 | |||
見晴らし茶屋を通過。 | |||
森の中の道が暗くなってくる時間だ。 気をゆるめずに急ごう。 | |||
一般道に出た。バス停まであと少し。
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そしてゴール。(18:50) 塔ノ岳から2時間。なんとか日が暮れる前に 大倉バス停に到着。 苦しかったが充実した探検だった。 |
●熱中症のツケは、その後3日間の食欲減退、筋肉疲労、脱力感、さぼり癖、につづき、
ベッカムに似ていると言われなくなる(いままでも言われたことはなかった)という結果を招いた。
●ガイドブックでは、このコースは山小屋に泊まる一泊二日のコースとして紹介されている。
探検初心者のわたしにとって、このコースはかなり無謀だったようだ。
ペース配分も考えず、檜洞丸へ登るときに張り切りすぎてしまい、コース後半は
探検ではなく、戦いになってしまった。生き残れてよかった。