探検リストに戻る

 

クライマーの技術を学べ。増水の大谷沢だ。

神ノ川ヒュッテ 〜 大谷沢

2011年 8月28日(日)、天気:晴れ、曇り

行動時間 8:00〜15:00( 7 h 00 min )

探検メンバー : キリヤマ隊長、まーちゃん

 

今回はゲスト隊員として、まーちゃんを迎えて探検する。

まーちゃんの山の経歴はすごい。小さい頃から、砂遊びで山を作るなど

登山に興味を示し、この子はきっと名だたる登山家になるだろうと

周囲の者は期待した。期待通り、小学生では逆上がりをマスターし、

大学時代は山岳部でさまざまな経験を重ねる。その後、

クライマーに転身。裏山の壁、苦労の壁、ベルリンの壁、を制覇し、

現在は丹沢屈指の探検家として、その名をほしいままにしている。

 

そんな、まーちゃんとキリヤマが手を結んだ。

いったい、どんな探検になるのか。

行くぞ、マイナールート探検隊。

 

国土地理院の地図に加筆 ↑ (以下同じ)

ホールドを見ろ。先を見抜け(巻き道パート1)

神ノ川ヒュッテ近くにマイナー探検1号を駐車。(08:00)

 

それでは、まーちゃん、

よろしくお願いします。

 

日陰沢沿いに、登山道を登っていく。

大谷沢は日陰沢の支流だ。

2人ともロクに地図を見ないで歩いていたので

大谷沢の分岐を見落として、通り過ぎてしまう。

(最初からこんなことで、大丈夫だろうか)

よし、この分岐から大谷沢だ。

行くぞマイナールート探検隊。(08:45)

 

大谷沢は最初、堰堤を4つ越える。

 

はじめの堰堤は、左から、残り3つは右から

すべて簡単に越えられる。

そして、堰堤を越えから、しばらく進むと、

F1 が見えてくる。その向こうには見えている滝は、F3だろう。

おそらく、F1 と F3 の間にある F2 は見えていない。

いよいよ、滝を登攀だ。

よろしく指導お願いします、まーちゃん。

ところが、この日はあいにくの増水で、

本来登る右側のルートは、大量の水が流れている。

シャワークライミングどころかこれでは、息ができない。

そこで、左側(右岸)の壁を大きく巻くことにする。

壁を少し登ったところで、まーちゃんが見上げる。

「ここは、とても悪いなぁ」

“悪い”とは、クライミング用語で危険なことをいい、

けっしてわたしの性格が悪いということではない。

 

でも、そんなに悪くないし、ホールドもある。

まーちゃんは、危ないのはホールドのあるその先、

トラバースするときが、もっとも危ないという。

 

うん、そう言われてみると、トラバースするところは

岩に隠れてよく見えない。上まで行って詰まると危険だ。

見えないところまで見通す、まーちゃんの眼力はすごい

 

とりあえず、もう少し上の方まで登って、

それからトラバースできるかどうか、探ってみる。

 

しかし、しばらく登っても状況は変わらない。

しかたがないので、懸垂下降で下りることにする。

 

けっこう高いところまで登ってしまたので、ロープが下まで

届くかどうか不安だ。わたしのロープは30m。折り返して使うので、

15mしか下れない。大丈夫か。

 

切り立った斜面でロープを出す。

ああしまった。ロープがからまった。

わたしは二枚目に見えるが、ロープの扱いに慣れていないのだ。

 

こんなところで、ロープをほどいていては危険だ。早く何とかしないと。

一部ロープがからまったままだが、とにかく懸垂下降を始めることにする。

 

わたしは、10メートル以上の懸垂下降は初めてだ。

下までロープは届かなかったが、それでも沢に立つことができた。

続いて、まーちゃん。(写真は、まーちゃんの下降)

さらに、沢を下って、

左側(右岸)から大きく巻くことにする。

まずは、まっすぐ登って、次に右方向へトラバース。

しかし、ここでまた問題が。トラバースする先には

切り立った斜面があり、さらに登らないとトラバースできない。

このままでは、沢に戻れなくなってしまう。

しかし、他に進むことができず、登り続ける。

ずいぶんと登った。

 

ついに、ヤブこぎになる。

そして、植林地帯に出る。

この植林地帯をトラバースして、

なんとか沢に戻れるところを探したい。

しばらく行くと、沢まで届く谷間に出る。

しかし、ここはなかなかの急斜面。

 

まーちゃんは大胆に下って行くが、

わたしは、お助けロープを何度も出して降りていく。

ようやく沢に降り立つ。F1、F2、F3 の上流に出た。

この巻き道で、約1時間が経過してしまった。(10:00)

切り立った崖を登れ(巻き道パート2)

さらに沢を登って行くと、

小さな滝をいくつか越える。

 

水量は多いが、なんなく越えられる滝が続く。

やがて、両岸が切り立った崖になってくる。

深い谷間の底にいるようなところだ。

やがて F4 が見えてくる。ここもかなりの水量だ。

 

大きな岩に阻まれているその滝は、ごうごうと水しぶきを立て

人が入るのを拒んでいる。近寄るだけで、はねつけられそうだ。

 

手前にある小さな滝を越えたところに支流が入り込んでいる。

ガイドによれば、この支流から巻くことができるそうだが、

その付近の崖が崩落しており、支流からのルートは危険だ。

右側(左岸)にある、この壁を登れば、

F4 と支流を同時に巻けるかもしれない。

「まーちゃん。ここから登れそうですよ」

「いや、登った先はおそらく、崩壊地の淵だ。その先は進めない」

「登って、向こう側を覗いてみましょうか?」

「だめです。ここは、登ったら最後、降りられないでしょう」

 

さすがは、まーちゃん。

またしても、わたしのヨミが甘いことを実感。

 

それでは、しかたないのでもっと大きく巻くことにする。

沢を下って、右側(左岸)から登れるところを探す。

シカの頭蓋骨だ。シカの角を収集している探検家も多いと聞くが、

シカの角をどこかに飾るのだろうか。しまっておくのだろうか。

 

もし、わたしが角を持って帰ったら、アンヌ隊員には

すぐに捨てるように命ぜられ、娘には小使いの値上げを要求されるだろう。

F4の巻き道は、なぜか踏み跡がある。

まーちゃん、いわく

「丹沢は、どこを登っても、なぜか踏み跡がある。

他の山ではこんなことはまずない」

 

F4の手前にある支流の上部に下る。

これを横切り、もう一度、対岸の斜面を登る。

木々の合間から、沢が見える。

かなり高く巻いてしまっているのが分かる。

なかなか沢に戻るポイントが見つからず、

さらに高く巻くことになる。

 

滝を越えてしまえば、沢も高くなっているはずなので、

沢に降りられるはずだ。

こうして、沢に戻ることができた。(10:50)

けっきょく、F4を巻くのに30分程かかってしまう。

 

このロスタイムが、後の行動を左右することになる。

決死のトラバース。まーちゃんをビレイせよ(巻き道パート3)

こんな小さな滝でも、今日は水量が多いので、

シャワークライミングになる。

なるべく水流を避けて登る、まーちゃん。

しかし、バランスを崩して、そのまま横倒しになる。

ぎゃー!!」(ぐぁー!!かもしれない)

まーちゃんが、大変だ。負傷か?レスキューの要請か?

「冷たい!、水が!!」

ああ、びっくりした。水をかぶっただけか。

 

F5、F6 は左側(右岸)の壁を登る。

F ナンバーの滝を登るのは、今日は初めてだ。

次の滝は、難しい。

本来、ここはナメ滝のはずで、水流の中を登れたはずだ。

右側を慎重にヘツって進む。

F7 が見えてくる。

ガイドによると、水流沿い右側を登れるらしいが、

登れるルートに今日は水が勢いよく流れている。

 

しかたがない、ここも巻こう。

先ほどの難しいナメ滝を下る。

しかし、わたしには、登るのが精一杯で下れる自信がない。

 

仕方ないので、まーちゃんがお手本に下って見せてくれる。

わぁー、どうしよう。すごく難しそうだ。

まーちゃん、わたしは無理です〜、助けてー!!

すると、まーちゃんは私のところに戻ってきてくれた。

そして、わたしのムービング(手足の移動)を指導してくれる。

 

「次は、その先の上を右手でつかんで、そのまま、下に右足を下ろす」

的確な指導の下、なんとか着地できた。まーちゃんの指導がなかったら

間違いなく、滑落&骨折しただろう。

 

すこし下って、左側(右岸)を巻く。

岩の溝があるところから登り、トラバースできるかもしれない。

ホールドはそんなに豊富ではない。

慎重に登って行く。

 

わたしは、まーちゃんの真下にならないように登り始める。

ラク!

岩が、勢いよく落ちてくる。アルマジロくらいはある岩だ。

ここは、岩がもろく、さらに上部は少しハング(90度以上の壁)している。

これは危険と判断し、沢に戻ることにする。

懸垂下降するための立ち木を探し、ロープを下に投げる。

うん、ぎりぎり届くぞ。まずは、まーちゃんから下る。

本日、2度目の懸垂下降だ。

さらに、少し下流から、大きく巻くことにする。

この後、あまりに高いところまで登ってしまう。

「隊長、ビレイ(確保)できますか?」

「はい、でもわたしのビレイで心配ないでしょうか」

こうして、まーちゃんの的確な指導のもと、ビレイを開始。

まず、わたしが自己確保して、ロープを自分の8環に通す。

まーちゃんが登攀を開始すると、わたしは、ロープのテンションに

注意して、ロープを出して行く。

 

まーちゃんは少し登って、立ち木にスリング、

カラビナで中間支点にする。

 

続けて、中間支点を取りながら安全な場所まで

トラバースする。

安全なところに着いたら、まーちゃんは自己ビレイをする。

わたしが8環をはずし、カラビナに直接ロープを装着。

そして、自己ビレイを解除。わたしは登攀しながら、

中間支点のスリング、カラビナを回収。まーちゃんがロープを引く。

 

ビレイの最中は、まーちゃんの命を預かることになる。

そして、まーちゃんもわたしに命を預けることになる。

ロープを結び合う、お互いの信頼がとても重要だ。

そのことを、とても実感できた。

 

これを繰り返し、危険地帯を無事に登攀する。

初めての本格ビレイに、感動だ!

(まーちゃん、ありがとう)

そして、普通に登れる斜面に着いた。

ここからは、もう安心だ。

だが、トラバースしても、沢に降りられそうなところが

なかなか見つからない。

そこで、さらに登って行く。

またしても、ヤブコギになるくらい高く登ってしまう。

植林地帯に到着すると、おお!

こんなところにマイナールートがある。

おそらく、植林のための仕事道だろう。

これをたどって行こう。

上手くいけば沢に出られるかもしれない。

しかし、その先は大崩壊地。

先の対岸に、この道の続きが見える。

この崩壊地を下れば、確かに沢に出られる。

しかし、かなり危険だ。

もう、午後1時だ。沢に入ってから3時間以上がたっている。

本来なら、もう沢の上部のツメにいる頃だ。

しかし、この日は3回の巻きに時間がかかり、

まだ予定の半分も登っていない。

まーちゃんは、もう沢に戻らないほうがいいという。

わたしは、どうしても沢を登り続けたかった。

その理由は、西丹沢自然教室のKさんに聞いた、大谷沢にある

貝の化石を見つけたかったからだ。

(← 大谷沢の化石。Kさん提供)

 

「隊長!、沢に戻って大室山まで登ったら、下山はヘッドライトです」

「でも、化石を見つけたいから、沢に戻りたいなぁ」

「このまま斜面を登り続ければ、犬越路、大室山の稜線に出られます」

「化石をまだ見つけてないですよ」

「稜線に出ても、かなり遅い時間になるなぁ」

「化石はどうしますか」

「とにかく急いだほうがいいですね」

「化石は…」

「残念だなぁ」

 

わたしは、しょんぼり。

しかし、まーちゃんの言うとおりだ。

このままでは、ヘタをするとビバークも余儀なくされる。

 

経験のあるリーダーは常に、一番安全なルートを考えるものだ。

そして、まーちゃんは経験のあるリーダーなのだ。

わたしのわがままを聞くわけには行かないのだ。

(アンヌ隊員のわがままが、少し分かるような気がした)

 

実は、昨日まーちゃんからメールで、増水しているかもしれないから、

撤退することも念頭におくように、と言われていたのだ。

そのとおりになっているのだから、やはりまーちゃんはすごい!

 

仕事道を探検だ。無事に帰還せよ

それにしても、この仕事道は、どこに行くのだろうか。

「隊長、もしかしたら、これは日陰沢の方に向かっているかもしれない」

おお、そうしたら、このまま稜線に向かうより早く下山できるぞ。

 

よし、この道を日陰沢の方にたどってみよう。

行くぞ、マイナールート探検隊。

ところどころに丸太橋もある、なかなかしっかりした仕事道だ。

尾根を回り込むところは、とてもしっかりしているが、

谷を越えるところは、崩壊して道が途切れているところが多い。

 

崩壊した谷間は、設置されたトラロープを使ったり、

ロープを出して、懸垂下降で下ったりする。

本日、一番高く、さらに真下に下りる懸垂下降になった。

丸太橋のあるここは、トラバース用のロープがあるので、

それにつかまって渡る。ところが、これが大変だ。

 

「わぁ、この丸太、すごく滑る」

そこで、トラバース用のロープにビレイをとって

四つんばいで渡る。完全に腰がひけているまーちゃん。

「隊長! 今日、一番怖いところだ。気をつけて」

次はわたしの番だ。いくら滑るからといって、たかが丸太。

四つんばいにならなくても、いいんじゃ?

まーちゃんもオーバーだなぁ。そおっと渡れば、大丈夫だろう。

そう思って最初の一歩を踏み出すと、

「わぁー、なんじゃこりゃ!!」

セッケンのようにつるつる滑る丸太橋だ。

わたしもそぉっと四つんばいで渡る。

四つんばいになると、眼下の谷間がよく見えて、

それが余計に恐怖心をあおる。これは怖い!

こうして、我が隊はガレ場の上に出る。

ここは、一歩踏み出すたびに、落石をおこしてしまうところだ。

「まーちゃん。この下は登山道かもしれませんね。ここを下りましょう」

しかし、まーちゃんは、こんなところを下っているところを

登山者に見つかったらこっぴどく怒られる、という。

 

そこで、そうなったときの言い訳を考える。

「わたしたちは、遭難者です」

「やっと登山道を見つけたぞ!助かった!」

 

そんな演技は無理。と、まーちゃん。

そのときになれば、きっとできます。と、わたし。

 

ゆっくりと下って行くと、どうやら下には登山道はなさそうだ。

そこで、ばんばん落石を起こしながら下って行く。

やがて日陰沢の堰堤に出る。反対岸には、

犬越路、神ノ川ヒュッテ間の登山道も見える。

 

よし、無事に、登山道に到着だ。

すごいぞ、マイナールート探検隊!

あとは、登山道を歩いて行く。

今日の行動を振り返り、撤退の原因は、

想像以上の増水、巻き道での苦闘、キリヤマの阿呆、と思われる。

 

リベンジを誓い、沢を後にする。

こうして、マイナー探検1号に到着。

まーちゃん、ありがとう。

(15:00)

 

◆今回、大活躍のまーちゃんブログはここだ!

 まーちゃんのブログ

 

あとがき

 

日陰沢の工事現場にある、

看板がなかなかいい。

 

イラストと写真が、とても個性的で、

見る人の目を引かずにはいられない。

 

 

これは、丹沢にいるツキノワグマではない。

右は、ヒグマか。左はグリズリー?

そして、この人。

立ち入り禁止の看板にある写真。

ポーズの意味は、「協力してね 」。

もしかしたら、ミス丹沢かもしれない。

このページのTOPへ

 

探検リストに戻る