ハーケン一本と、残置ハーケンを使って
滝の途中にある棚のところまで登り、
立木で自己確保する。
次に、妻(アンヌ)が登る。
私は立木のところで妻の確保をする。
私のいる立木は定員1名なので、妻は右にトラバース。
そのまま上に。そして作業道に到着する。
登攀終了。(よし!)
次に、私が妻のトラバースしたルートに向かう。
私も妻と同じように、簡単に登れるはずだった。
ところが、ここに問題があった。
私の位置からは、トラバースが難しいのだ。
あわてて滝の途中にある元の立木に戻る。
立木から崖を見上げると、もろい岩肌のザレ場。
ここから登ることはできない。
懸垂下降しても、ロープが下まで届かない。
まずいな、このままでは動けない。
ここからが戦いだった。
しばし考えて、
妻に“上からロープを投げてもらう作戦”を開始する。
まず、妻がロープを引いて回収。そして作業道を使って、
滝の途中にいる私の真上に到着。
そして、私に向かってロープダウンする作業を開始する。
ここで初めて私は、自分のアホに気が付く。
ロープを上から下に投げてもらうだって??
今考えてみると、よくそんなバカげたことを考えたものだ。
ここは、ロック・クライミングの岩場じゃないんだぜ。
上からロープを投げても、途中の立ち木にからまって
下まで届くわけがないじゃないか。
しかも、妻のいる作業道は地面がもろく、
妻の作業中に、落石が私めがけて直球勝負を挑んでくる。
あせる、私。
ストップ!ストップ!!大声で騒ぐ、私(アホである)。
作戦は失敗だ。
しかも、ロープは妻が回収してしまった。最悪だ。
ロープさえあれば、たとえ下までロープが届かなくても、
途中まで下降し、残置ハーケンを使って、
下降することもできたかもしれない。
まったくバカなことをしたもんだ。
進退きわまる、絶体絶命、万事休す。
文字どおり崖っぷちに立たされる。
ここでしばし、考える。
貴重な時間が血のように流れていく。
とにかく、ロープをゲットしないことには
どうにもならない。
どうやったら脱出できるのか。
妻と話し合おうとするが、
私は下から、アンヌは上から見ているので、
お互いの見え方が違い、2人の意見が合わない。
私が「あの木」と指さしても、
妻には「この木」なのか、「その木」なのか
わからない。
妻が「あの木」と指さしても、
私には「この木」なのか、(以下略)
おまけに、2人の距離が離れており、
互いの声が聞きとれず、会話は困難を極める。
(滝の音も大きい)
必然と大声で叫ぶようになり、
しまいには怒鳴り合いになる。
滝の途中で孤立。しかも夫婦喧嘩。
これは貴重な体験だ。
(ポジティブ桐山、バンザイ!)
パンがないなら、ケーキを食べればいい。
登れないなら、降りればいい。
そこで、次の作戦。
妻に先ほど登ったルートを懸垂下降で降りてもらい、
なるべく私の近くまで来てもらう。
私が妻に向かってお助け紐(10m)を投げて
それにロープを結んでもらう。
そしてお助け紐を私が引く。ロープをゲットする。
うん、この手だな。
こうして、妻がロープを持って、
私のところから、4,5mほどまで接近。
(その場で妻はセルフビレイ)
私は、お助け紐の先にカラビナを付けて、
投げ縄よろしくロープを振り回す。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
そして、手を放す。それ!!
全然、届かない…
そんな簡単に届くわけがないか…
しかし、今はこれしか方法がない。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐる、それ!!
ぐるぐるぐるぐるぐるぐる、それ!!
ぐるぐるぐるぐるぐるぐる、それ!!
何度かトライしているうちに、
ぐるぐるぐるぐるぐるぐる、それ!!
ぐるぐるぐるぐるぐるぐる、それ!!
コツがつかめてきた。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐる、それ!!
そして、ついに届く。
よっしゃ〜!
こうしてロープをゲット。無事に懸垂下降。
(ロープはぎりぎり下まで届いた)
F4を登り始めてから、2時間が経過していた。
ケガなくすんで、よかった。よかった。
無事に滝の下に立った私は、少し下流から、
作業道を使ってF4の上に到着。
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